静岡にある、小さなフランス[Patisserie Hirondelle]

静岡駅から北にかけて広がる繁華街より、車で約5分。進むにつれ増えていく緑を横目にたどり着くその店は、静岡にあって欧州の空気が流れています。
『Patisserie Hirondelle(パティスリー イロンデル)』
葵区大岩町に軒を構えるこの小さなお店は、フランス菓子をベースとした洋菓子店です。

オーナーパティシエの水野さんは、小さい頃、お母さまやお姉さまと一緒にパンやクッキーを作った体験からパティシエを目指したのだといいます。
動物の形に生地を抜いたりオーブンの中で膨らんでいく生地を眺めるのがとても楽しくわくわくしたことや、出来上がったお菓子を食べながら「美味しくできたね」、「次はこれを作りたいね」と話しながら過ごした時間の楽しさが忘れられず、いつしか生業へと変わっていったのだそう。

全世界に星の数ほど広がるお菓子作りの文化の中から、なぜフランス菓子を選んだのでしょうか。
筆者が問いかけると、水野さんは一言一言、言葉を選びながら真摯に答えてくださいました。
「それは…難しいですね(笑い)最初は、ざっくりとお菓子屋さん、洋菓子屋さんという感じでこの世界に入ったんですけれど、その中でやっぱりフランス菓子というのはメインというか……洋食といったらフレンチ、みたいな感じですかね」
専門学校を卒業した後、国内のホテルで菓子職人として働くうちに「フランスの現場で働きたい」という想いが芽生えた水野さんは、2005年に現地へと渡りました。フランス南西部のアルカッション、そしてパリ郊外のパティスリーで修行を積み、感じたのは
「もうちょっと深くフランス菓子を掘り下げてみたい」
という想い。

フランスでは、なんでもない週末にホールケーキを買っていく家族や、箱に入れずケーキを買って帰る人がいたりと、日本よりずっとケーキ屋さんとそこに暮らす人たちの距離が近く、お菓子が生活の中で身近にあります。お惣菜やパンを売っていたりするお店も少なくないのだとか。
それほど生活の中に根付いているだけあって、各行事、各地方それぞれに多様なお菓子が作られており、奥が深いのだと水野さんは言います。
行事であれば、日本でも馴染みのあるクリスマスやバレンタイン、現地では大きなお祭りであるイースターなど。それぞれにお菓子が欠かせない存在であり、また、地方ごとにテイストも異なります。
北部のアルザスではドイツ菓子に近い重厚なものが、海が近いブルターニュでは海の恵である塩が入ったバターを使ったものが、そしてワインの一大産地であるボルドーではコニャックやラム酒を使ったものが……。
数えればキリのないほど多彩なお菓子が、フランスには存在するのだそう。

2年の間、現地で様々な味の風を感じて帰国した水野さんが、国内の有名ホテルやパティスリー、10年の勤務を経て、創り上げたお店がイロンデルです。お菓子はもちろん、内装のひとつひとつにもフランスのパティスリーの風情をもたせたのだそう。
「そのうち、各地方のものを順を追って出したりしたいとは思っていますが、基本的にはフランス菓子を包括したようなものですね」
フランス菓子を外からの視点で見た水野さんだからこそ作れる、それぞれの地方にとらわれずに創り上げたお菓子は、ひとつひとつが文字通り宝石のような輝きでもってガラス越しに胸を張っています。

大体15~20種類ほどが揃っているというショーケース内のケーキに向き合ってみると、「さて、どれにしようか……」と悩ましい限り。
聞けば、中でも人気なのは買い求めやすい「シュークリーム」や「プリン」だといいます。
まずはスタンダードなもので味を確かめて、それから他のお菓子へと手を伸ばすお客様が多いのだそう。
沢山のお菓子の中にはもちろん季節に合わせたものもあり、夏の近づく今の季節ではマンゴーやパッションフルーツ、ミントなどのトロピカルさや爽やかさの際立つ商品が並びます。

そうした夏のケーキの中で、他では味わえないと感じられるのが、チョコレートとミントを使った『ショコラ ア ラ マント』。
チョコレートとミントという組み合わせ自体は、アイスクリームやチョコレート菓子などでポピュラーなものですが、イロンデルのショコラ ア ラ マントは少し趣が違います。チョコミント味というと、鮮やかな青緑色でわかりやすくパッキリとした甘いミントの印象が強くなりがちですよね。
それぞれに食感の異なるチョコレートケーキの層が重ねられた上にふんわりとしたミントのムースを頂き、葉があしらわれたショコラ ア ラ マントは、まず、フレッシュなミントの爽やかな香りがムースとともにふわりと口腔内に広がり、その余韻が消えぬうちにしっとりとしたチョコレートの生地が濃厚さを添えてくれます。
ミントムース、チョコレートケーキともに甘さは控えめ。チョコミントが苦手という方でも、美味しく食べられるのではと思える、甘すぎない「大人のチョコレートとミント」といった風格が漂っています。

イロンデルには、他にも甘さ控えめなブラックチョコレートを使ったケーキなどもありますので、甘すぎるお菓子が苦手という方も美味しく召し上がれるお菓子を選びたいという場合にもぴったりです。
甘いものが苦手、という男性の方へ贈りたい場合などにはクリームの乗った生菓子ではなく、パウンドケーキという選択肢も視野に入れてみるのはいかがでしょうか。
「チョコにいちじくのワイン煮が入ったパウンドケーキは、甘すぎないしワインやウイスキーなどのお酒にも合いますよ」
と水野さんが教えてくれました。また、ビールに合わせるのならチーズのクッキーなどもオススメなのだそう。
お酒好きの方へ肴になるお菓子を、というのもなかなか乙な贈り物ですよね。
また、パウンドケーキは常温で持ち歩きが可能ということもあり、お土産としての人気が高いのだそう。常時5種類ほどが用意されています。

逆に、女性が好みそうな可愛らしいスイーツも、もちろんあります。見た目も華やかなケーキを写真に撮って、美味しく食べながらインスタグラムなどのSNSに投稿するのが趣味、という方も沢山いらっしゃるのではないでしょうか。
「ズバリ・インスタ映えは?」と訊くと、少し考えた後にこちらのケーキをセレクトしてくださいました。

「『エマ』と「シシリー」いうケーキは、いいと思います」
名前からして可愛らしいこちらは、いちごとホワイトチョコレートメインとした「赤」(エマ)とピスタチオとチェリー使った「緑」(シシリー)の2種類。赤と緑、それぞれの鮮やかなチョコレートが側面を覆うコロンとした丸いフォルムは、文句なく愛らしいルックスで、写真映え間違いなしです。もちろん、お味の方も。
フォークで一口切り取ると、柔らかなスポンジとクリームの中心に、瑞々しいジュレがたっぷりと詰められているのがわかります。赤と白が美しく重なり合ったてっぺん(ホワイトチョコレートムースの上)に絞り出されたクリームの柔らかな甘味が、ジュレの甘酸っぱさを引き立たせています。

そして、それらの組み合わせられた味が、一口ごとに口の中でとろけていくほどに柔らかです。
エマと一緒に紅茶を用意すれば、それだけできっと気分の上がる素敵な時間を過ごすことができるでしょう。

他におすすめなのは、夏らしさを感じる『ゼリー』。ゼリーと聞くと、やはりプリンなどのようにカップに入ったものをイメージするかと思います。
しかし、イロンデルのゼリーは、他で売っているものとは少し雰囲気が違います。なんと、小さな袋に詰められており、光を受けるときらきらします。
赤、黄色、緑……と色とりどりのゼリーは全部で5種類。中でも人気があるのは『フレーズ フランボワーズ』で、これはフランス語でイチゴとラズベリーのこと。
早速、真っ赤なルビーをジュレにしてパックしたようなゼリーの封を開け、ちゅるんとした中身をスプーンで掬っていただくと、イチゴの慣れ親しんだ間違いのない甘酸っぱさとラズベリーが溶け合い、より深みのあるリアルな果実感が口の中に広がっていきます。ひとくちひとくちしっかりと味わいながら食べていっても、なくなってしまうのが惜しいほど「いつまでも食べていたい」と思える味です。
他にも『シトロン ジャンジャンブル(レモンとショウガ)』、『ポム アラ マント(青りんごとミント)』などの少し変わった組み合わせのゼリーも人気だそう。
果実の美味しさを閉じ込めたゼリーは常温で持ち運ぶことができるので、夏の時期のギフトにも大活躍です。

お菓子屋さんに行くタイミングというと、やはりギフトを買いに行くときが多いと思います。
「種類があるので、見て楽しんでもらえたらいいなと思っています」
という水野さんの言葉通り、イロンデルには生菓子から焼菓子、更にはゼリーなどたくさんの種類があるので、どれにしようかと迷ってしまうかもしれませんね。
特に、多くのケーキがショーケースの中で綺麗に並ぶ様は、「どれも美味しそう~」と嬉しい悲鳴を上げてしまいそう。見た目にも美しいケーキを選ぶという時間は、デートにもオススメです。
イロンデルの店内には、テーブル席も設けられており、コーヒーなどのドリンクを注文してその場で召し上がることができるので、フランスの雰囲気を感じながら美味しいケーキでお茶をするのはいかがでしょうか。

イロンデルの店内をよく見ると、ツバメを模った愛らしいオリジナルのモビールが揺れているのに気がつきます。
『Hirondelle(イロンデル)』という店名は、フランス語で「ツバメ」という意味。ツバメは幸運を運ぶ鳥と言われ、何万キロも旅をし巣のある場所に戻ってくる鳥です。
店名には、ツバメのように「また戻ってきたいと思ってもらえる場所にしたい」という水野さんの願いが込められています。

アクセス

Address 420-0885 静岡市葵区大岩町5-12
Tel 054-297-5330
Open 10:00~19:00
定休日 水曜日 他 不定休あり
駐車場あり 4台
公式web https://hirondelle-patisserie.net/

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